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HAGAKI
研究者コラム

三四郎池にて
At Sanshiro Pond

 『知の開放 知の冒険 知の祝祭 東京大学 学問の過去・現在・未来』を見る機会があった。蓮實重彦総長が就任した1997年に制作された吉田喜重監督による東京大学の広報映像である。大学紹介の動画であるだけでなく、夏目漱石の『三四郎』の登場人物を通して、日本の近代化を振り返り、今後を垣間見る作品となっている。吉田喜重が演出・構成と語りを担当する。漱石は西洋合理主義によって人間の全容を解明する立場に距離を置いており、その明らかでないものを「夢」に託した。三四郎池に佇む里見美禰子との出会いが、小川三四郎の「夢」の始まりであり、「矛盾」の出発点になる。ストレイシープたる三四郎にとって、「夢と矛盾」は新しい時代を照らし出す両面である。映画では1997年当時の旧東京医学校本館(現総合研究博物館小石川分館)が医学部一号館と合成されて三四郎の夢の時間を振り返る舞台となっている。また本郷の懐徳園は広田先生の自宅という設定で、ここでも映画らしい空間の飛躍がある。くわえて、大学における実際のできごとも記録されている。創立120周年記念事業「東京大学–−学問の過去・現在・未来」における安田講堂および総合研究博物館での展示風景、建築学科の設計課題のエスキース風景、柏キャンパスの建設現場も登場する。三四郎の想いに立ち戻ってその先の世界を見せたこと、そして何より、吉田喜重の眼を通してイメージを再構築したことが本作の魅力につながっている。しかしこれが大学の広報映像としていかなる効果を及ぼしたのかはわからない。広報に期待される現在性からはむしろ隔たっているように見える。映像は歴史に時間と空間の輪郭を与えるが、その大胆な構想力こそが伝えられるべきものであろう。

松本文夫(東京大学総合研究博物館特任教授)
Fumio Matsumoto

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