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HAGAKI
研究者コラム

激突
The Duel

 特別展『極楽鳥』の鳥パートの解説はかなり自然科学に寄せてある。美のために作られたジュエリーに対し、生きて繁殖してこその生物の姿をきちんと対比する必要があると考えたからだ。そう考えると、妙な対抗心も湧いてくる。だが相手は名だたるメゾンの名品も含む宝飾品であり、そちらが目的の来館者も多いだろう。鳥にさして興味のない人々にも、鳥の魅力は伝わるものだろうか? そういう不安も抱きつつカタログ用に標本撮影の日を迎えた。そして光を浴びたニジキジを見た瞬間、不謹慎にも「勝てる」と思ってしまった。宝石にも貴金属にも一歩も引けを取らない羽毛の輝きは、角度によって赤銅色、黄緑、青と色を変え、時に漆黒に沈む。これこそが進化の生んだ奇跡であり、美という一点を持ってもヒトに負けはしないと、鳥に言われているようだった。ただし、この自信は宝飾品がIMTに到着した瞬間に揺らいだ。ジュエリーの圧倒的な存在感は、やはり現物を前にしてこそなのだ。

松原始(東京大学総合研究博物館特任准教授)
Hajime Matsubara

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