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HAGAKI
研究者コラム

オリエント考古美術の話(5) 嘴状水差し型土器
Beak-spouted Jar of Ancient Persia (Part 1)

 今回、取り上げるのはトリの嘴のような注口をもった土器である。専門的には嘴状水差し型土器と言う。写真ではわかりにくいが、注口は樋(とい)のようになっていて上半分は開いている。こうした土器はイラン北部の青銅器時代から鉄器時代、西暦で言えば前3千年紀から1千年紀前半にさかんに製作された。青銅器時代の作品には彩文が付けられていたり、複数の土器を連結したりなど、華美なものが多い。また、性器を強調した男性土偶をともなっていることもあって、男性集団にかかわる儀礼の道具として作られたとの説もある。一方、鉄器時代になると無文でシンプルな作品が主になる。展示品は、無装飾で容器部が算盤玉形をしていること、取っ手が小さいことなどからみて鉄器時代、しかもその後期、前1千年紀前半の作品であろう。注口の根元の両側には小さな粘土粒、上には突起がつけられていて、眼やトサカを表現しているようにもみえる。嘴状水差し型土器は、墓の副葬品として見つかることがふつうだから、やはり当時の儀礼、宗教とかかわる品物だったと考えられている。液体をそそいだのだろうとは推測できるが、儀礼の中身はわかっていない。ただ、興味深いのは、ゾロアスター教が教義をととのえはじめた前1千年紀半ばにはプツリと消えてしまう点である。逆に言えば、この種の土器は、文字記録が無い頃のペルシャ原始宗教がどんな風であったかをさぐる有力な手がかりを提供しているのである(続く)。
●写真5 展示中の嘴状水差し型土器

西秋良宏(インターメディアテク館長・東京大学総合研究博物館館長/教授)
Yoshihiro Nishiaki

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