JPタワー学術文化総合ミュージアム インターメディアテク
HAGAKI
研究者コラム

オリエント考古美術の話(2) 「正倉院宝物に似たカット・グラス」
Sasanian Glass Vessel and Ancient Japan (Part 1)

 展示中のコレクションの中に、紀元3〜7世紀ごろのササン朝ペルシャ産カットグラスが一点、含まれている。表面が乳白色に風化しているのでガラスとは思えないかも知れないが、元来は、透きとおった瑠璃色をしていたはずである。類似の作品として最も保存良好な国内作品は、奈良正倉院宝物庫にある皇室の白瑠璃碗であろう。当時の日本にそのような製作技術があるわけもない。したがって、シルクロードをへてはるばる西方から持ち込まれたのだろうとは皆が推測してはいたが、では、どこで作られた碗なのかというと誰も答えられないというのが1950年代までの状況であった。そこに風穴を開けたのが、1959年、江上波夫調査団に同行しイランで古美術調査をおこなっていた若き日の深井晋司(1926-1984)、後の東洋文化研究所の教授である。立ち寄ったテヘランの骨董屋で偶然、似たようなカットグラスを見つけたのだという。深井教授は、その時、「いったい正倉院のガラス器と同じ作品がこんなこっとう屋の、しかもがらくたの中にあるのか、そんなはずはない」と正直な感想を記している(「正倉院宝物に似たカット・グラス」朝日新聞1959年11月11日朝刊)。それは、ササン朝ペルシャと古代日本の歴史が学術の世界で結びついた瞬間であり、そのドラマを伝えた朝日新聞の記事は日本にシルクロード・ブームを巻き起こした(続く)。
●写真2 インターメディアテクで展示しているササン朝ガラス碗

西秋良宏(インターメディアテク館長・東京大学総合研究博物館館長/教授)
Yoshihiro Nishiaki

コラム一覧に戻る