JPタワー学術文化総合ミュージアム インターメディアテク
HAGAKI
研究者コラム

展覧会の後で
After the Special Exhibition

 2021年6月19日から9月26日まで開催した特別展示『蘭花百姿−東京大学植物画コレクションより』と同名の書籍が2022年5月に誠文堂新光社から刊行の運びとなった。この特別展示を本格的に準備していた2021年の冬から春にかけては、コロナ禍による2回目と3回目の緊急事態宣言が続けて発出されていた。ミュージアムも感染症予防のために臨時休館の措置をとることがあった頃である。会期を迎える前にインターメディアテクの臨時休館は解かれたが、状況次第で再び会期中に休館になるのではないかとも危惧していた。結果的に予定通り開館を続けることができたものの、会期中の最後までまん延防止等重点措置と4回目の緊急事態宣言下にあり、あまり多くの人に展示を見に足を運んでもらえないかもしれないという予測はそのまま現実とならざるを得なかった。こう書くと随分暗い話に聞こえるかもしれない。しかし、この状況は翻って、本展示の内容を伝える出版物は時間と空間の制約を超えて「蘭の博物誌」を紙上で新たに展開するものとしようという、前向きでやりがいのある取り組みへと向かわせてくれた。コロナの影響が続いた2年超をいま振り返ると、できなくなってしまったことや計画変更を余儀なくされたことも多くあったが、私にとって本書の刊行はウィズコロナの時代だからこそ機会が与えられ実現できた仕事となった。蘭花百姿の名に違わぬ多彩な図版と充実した解説・エッセイを本書に収載するために尽力くださった執筆者や関係者の皆様にはここに改めて心より御礼申し上げたい。そして、本書に自負する学術的意義とは別に、非常に感覚的な願いを述べるならば、コロナ禍中で生まれた本書ゆえに、手に取ってくださった人たちが明るい気持ちになり、笑顔でページをめくってもらえるような本になっていたらいいなと思っている。

寺田鮎美(東京大学総合研究博物館特任准教授)
Ayumi Terada

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