JPタワー学術文化総合ミュージアム インターメディアテク
HAGAKI
研究者コラム

採光計画
Lighting Plan

 空間への光の導入は建築設計の重要な検討課題である。ミュージアムにおける採光計画の取り組みを複数の事例でみていきたい。展示空間における自然採光の導入は、ロンドンのダリッジ絵画ギャラリー(1817、写真)に始まる。壁面に開口部をほとんど設けず、屋根に配した多数のスカイライト(天窓)から光を取り込んでいる。この画期的な方法はその後の展示採光の基本形となった。スカイライトの考え方を一段と進化させ、比類なき水準に高めたのがフォートワースのキンベル美術館(1972)である。サイクロイド型の断面をもつ曲面屋根の頂部を走るスリットから入った自然光は、下部の金属パネルで反射して曲面屋根の室内側を照らし、そこでさらに反射して展示空間を満たしていく。反射を重ねることでシャープな直射光は柔らかい拡散光に転じ、未曾有の光の空間領域をつくりだす。一方で反射ではなくフィルタリングによる光の制御を試行したのがバーゼルのバイエラー財団美術館(1997)である。展示室の天井を全面的に開き、そこに5層からなる光の制御レイヤーを挿入した。上から、直射光をさえぎる半透明ガラス、紫外線除去をになう複層ガラス、コンピュータ制御のルーバー、展示室側のガラス天井、金属メッシュ天井である。実際のところ、ミュージアムにおける自然採光は敬遠される傾向にある。太陽光からの作品保護、均質な光環境の確保、幅広い演出の可能性といった観点から、現在ではLED照明器具によるライティングが主流となっている。しかしミュージアムはことごとく閉じた人工環境に向かうのだろうか。万物が属していた光の空間のダイナミズムを継承すべきではないか。インターメディアテクは自然採光と人工照明が共存する貴重な実例の一つである。なお紫外線対策済みである。

松本文夫(東京大学総合研究博物館特任教授)
Fumio Matsumoto

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