JPタワー学術文化総合ミュージアム インターメディアテク
HAGAKI
研究者コラム

動線計画
Circulation Plan

 ミュージアムの「動線」すなわち人の動き方には概ね4つのタイプがある。第一は「極少の動線」。これは動線が発現する間際の、動かずとも一覧できる強い場所性に結びつく。安曇野の碌山美術館(1957、写真)はその珠玉の実例である。100㎡に満たない小さな展示室には、荻原碌山のブロンズ像が窓からの光を受けて同じ向きに配されている。ミュージアムの最小形であり、一つの完成形を感じさせる。第二は「直進する動線」。展示物が増えてくると、空間を横につないで直列の配置計画となる。ミュンヘンのアルテ・ピナコテーク(1836)は、英文字のIに似た細長い外形をもつ。始点と終点がある明快な動線計画で、欧米に多くの類例がつくられた。第三は「回帰する動線」。展示室をぐるりと巡って出発点に戻ってくる構成で、ベルリンのアルテス・ムゼウム(1830)に始まる。ギリシアの列柱とローマのドームを抱えた新古典主義の名作であるが、周回型空間群という新しい提案を組み込んで近代ミュージアム建築の原型となった。第四は「自由な動線」。人の動き方を決めつけない応用自在なユニバーサル・スペースが前提となる。ベルリンのニュー・ナショナル・ギャラリー(1968)は、その思考の純粋性を残す大空間である。さて、インターメディアテクはどのタイプだろうか。実はすべてのタイプにあてはまる、あるいは、すべての動き方を選択できる施設である。固有性のある場所が散在し、全体として細長い平面形をもち、しかし順路は決められておらず、自由に往還や周回を重ねることができる。来訪者が動線を発見して楽しめるミュージアムである。

松本文夫(東京大学総合研究博物館特任教授)
Fumio Matsumoto

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