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HAGAKI
研究者コラム

ボーダーズ
Borders

 教養前期の授業「映像デザイン実習」の今年度の課題テーマは”Borders”とした。5分以上10分以内の映像作品をグループで制作する。テーマの解釈と作品の構成は自由である。何のborderか(政治的、文化的、身体的、心理的・・・)、borderをどうするのか(なくす、つくる、あばく、こえる・・・)、映像としてborderをどう表現するか(見えるとは限らない)。borderは強い言葉なので、その理念的な形式性にとらわれすぎない方がよいと感じていた。学生たちの4本の力作を見て、その懸念は払拭された。朝起きたらシマウマになっていた主人公をめぐる、人と人の境界の発生と溶解と遷移。日本とシンガポールを舞台に、友情が国境を乗り越えていくプロセス。「ボーダー柄」が世界から消滅したことを知り、悲嘆にくれる主人公の新たな出会い。そして4つめの作品”Alienation”(写真)は、社会の少数者が向き合うbordersを主題としている。東京で一人暮らしをする外国人Aは、社会生活や入社面接などで日本社会との間に見えない境界線を感じている。彼女はレンタルフレンドKAFUKAとの会話で癒されるが、それは形式的な関係にすぎない。Aは心の声で対話を深め、人間と人間、人間と自然との間に存在する数々のborderに思い至り、自分との和解の旅にでる。思弁的で内省的なプロットに思えるが、誰もが抱える普遍的な課題へと展開し、bordersとの共存の期待をもって終わる。精緻なテキストと都市の気配を組みこんだ見応えのある作品で、その実験志向はどこかアラン・レネを想起させた。今年度はPEAKの学生が3人参加して、国際色豊かな授業進行となった。考えてみれば、大学はborderが集積する場所である。さまざまな分野や帰属の境界を超えるために、確かに「旅」が必要だろう。

松本文夫(東京大学総合研究博物館特任教授)
Fumio Matsumoto

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