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研究者コラム

マメヅタラン(豆蔦蘭)のアウラ

 1887(明治20)年に創刊された『植物学雑誌』は日本で有数の歴史ある学術雑誌として知られる。この第1巻第1号の第3版に、マメヅタランの全体図と花の拡大図を示した多色刷り図版が掲載されている。これは、植物学者・大久保三郎がマメヅタに似た蘭の形状について述べた文章に添えられた図である。公開中の特別展示『蘭花百姿−東京大学植物画コレクションより』では、本図版とともに、その原図と推定される植物画2点(東京大学総合研究博物館所蔵)を並べて紹介している。手描きの図を眺めながら、大久保が1882(明治15)年に房州清澄山に植物調査に出かけて初めて見つけた植物を記録した時の胸の高鳴りまでこれらの図が伝えているかもしれないと想像すると、そこに唯一無二のものとしてのアウラが感じられる気がする。一方で、植物学研究のために植物画が果たす役割のなかで、学術論文の図版として印刷出版に用いられることが第一義であるとすれば、原図はその準備過程にあったものにすぎないとも言える。そうすると、印刷物に掲載された図版に目を移した時に、複数存在し流通したこれこそが完成形としての輝きを放っているように思えてくる。このようにオリジナル/コピーを巡るわれわれの認識という興味の尽きない問題にまで考えが及ぶのも、本展で植物画を鑑賞する楽しみのひとつではないかと思う。なお、前期(8月1日まで)の展示では、マメヅタランの標本も会場内で見ることができる。

寺田鮎美(東京大学総合研究博物館特任准教授)

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