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HAGAKI
研究者コラム

展示のオートエスノグラフィー

 展覧会は一過性のイベントである。会期が終わると、どんなに話題になり、多くの人が足を運んだ展覧会でも、意外にその全容はわからなくなってしまう。展示図録には、企画趣旨や展示物の画像と解説は収められるが、展示構成は反映されていない場合もある。準備段階でどのようなことがあったか、観覧者がどのように受けとめたか、また関連して開催されたイベントの情報については、大抵は図録の守備範囲外にある。東京大学総合研究博物館では、『真贋のはざま−デュシャンから遺伝子まで』(2001)、『MICROCOSMOGRAPHIA−マーク・ダイオンの『驚異の部屋』』(2003)、『プロパガンダ1904-45−新聞紙・新聞誌・新聞史』(2004)の各特別展示で展示評価報告書を作成している。しかし、展示図録ではないという分類のためか、自館の刊行物データベースに挙げられていない。インターメディアテク研究部門発足後に筆者が編集を担当した『ファンタスマ−ケイト・ロードの標本室』(2011)博物館工学ゼミ活動記録報告書、『Mobile Museum Boxes – The Diversity of Natural History of Mindanao』(2015-16)(フィリピンでのモバイルミュージアム)のプロジェクト報告書も同様の扱いである。「オートエスノグラフィー」とは、語る主体としての自己を顕在化させ、自らの個人的な経験を記述し批判する研究手法である。ミュージアム研究の分野に「展示のオートエスノグラフィー」というコンセプトを浸透させ、展示に関するさまざまな当事者の事後的記録の作成を促すとともに、どこかにアーカイヴできないかと最近考えている。展示図録についてはISBNが付いていなくても国立新美術館のアートライブラリー等、既存のアーカイヴ体制が機能しているが、そこから漏れてしまう形式や小さな証言を「展示のオートエスノグラフィー」では取り込みたい。このコンセプトに当てはまる記録には、上記のような報告書だけでなく、展示空間の写真集、展示に関わった人たちの振り返り記事(ニュースレター記事から学会誌の研究ノートまで)など、既に多様な形が存在する。物理的なアーカイヴではなく、タグをつけて、所在情報をウェブ上にまとめていくという考え方でも良いかもしれない。いいアイディアだと思っているのだが、どうだろうか。

寺田鮎美(東京大学総合研究博物館特任准教授)

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