JPタワー学術文化総合ミュージアム インターメディアテク
HAGAKI
研究者コラム

インターメディアテク・レコード・コレクション(21)
ブラック・レーベル

 娯楽として発展したジャズにおいて、社会問題などを問う「プロテスト・ソング」は長らく封じ込められていた。しかし1950年代に入ると、黒人中心の公民権運動に呼応する形で政治的な内容を持つ作品が次々と発表される。大手レコード会社による抑圧を避けるべく、インディペンデント・レーベルの歴史を継いで、完全に独立したレーベル運営に挑戦するミュージシャンもいた。ベーシストのチャールズ・ミンガス(1922-1979年)が妻のセリア、ドラマーのマックス・ローチとともに創立したレコード会社「デビュー」は僅か5年で廃業に追い込まれたものの、その短い期間に錚々たるジャズメンの実験的な録音を収めた。LP盤に切り替わる直前に発売された12枚のSP盤には、ミンガスおよびローチを中心に、リー・コニッツ、ジジ・グライス、ハンク・モブレー、ハンク・ジョーンズらが登場する。しかし「デビュー」から出た名盤といえば、LP時代に発売された「ジャズ・アット・マッセイ・ホール」(1953年)に勝るものはない。ミンガスおよびローチに加わり、ガレスピー、パーカー、パウェルが伝説のビバップ・クインテットを形成した。

大澤啓(東京大学総合研究博物館特任研究員)

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