JPタワー学術文化総合ミュージアム インターメディアテク
HAGAKI
研究者コラム

インターメディアテク・レコード・コレクション(19)
舞台装置としての録音再生

 1944年4月18日、「バレエ・シアター」による『ファンシー・フリー』がジェローム・ロビンス(1918-1998年)の振り付けでメトロポリタン・オペラ・ハウスにて初演を迎えた。音楽を担当した作曲家のレナード・バーンスタイン(1918-1990年)は当時25歳の若さで、バレエ曲の経験がなく、その音楽は複雑なリズムと驚異的なテンポでダンサーを苦しませた。それが功を奏して、『ファンシー・フリー』は一世を風靡し、アメリカ独自のバレエを確立するうえで歴史的な作品となった。筋書きは極めて単純だった。戦時中に海軍の船乗りが三人でニューヨークに出て夜遊びする。ところが開幕の場面には時代を表す特殊な装置が設けられていた。船乗りたちがバーに入ると、カウンターの奥に置かれたラジオから、ブルースが聞こえてくるのだ。バーンスタインはこの曲を憧れのビリー・ホリデイに歌ってもらいたかったが、当時無名であったため、願いが叶わなかった。名声を得て、ホリデイと同じくデッカ・レコードの所属となったバーンスタインは1946年にホリデイに「ビッグ・スタフ」を吹き込んでもらった。

大澤啓(東京大学総合研究博物館特任研究員)

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