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HAGAKI
研究者コラム

立体感

 「烏」という文字は「鳥」の横棒が一本足りない。これは象形文字の段階で横棒が鳥の目を表しており、カラスは真っ黒で目がどこにあるかわからないからだ、と言われている。確かに烏は黒ベタで立体感がわかりづらい。だから、カラスの顔は平板なものと思われていないだろうか? 写真はハシブトガラスの顔だが、羽毛を寝かせた状態では極めて立体的で、骨格の形がきっちりと見えているのがわかる。眼窩の上後方は出っ張っており、ここに羽毛がかぶさることでさらに「眉」のように強調される。一方、目の前方、特に斜め下に向かっては出っ張りがなく、羽毛の流れのせいもあって溝のようにえぐれている。カラスは餌のある方向、つまり前下方がよく見えるのだ。これが獲物を捕食する猛禽類だと目全体がもっと前を向き、立体視できる範囲を広げている。このように、鳥の顔はその生活史を反映しているが、それ以前に造形物として「絵になる」ことも、しばしばある。

松原始(東京大学総合研究博物館特任准教授)

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