JPタワー学術文化総合ミュージアム インターメディアテク
HAGAKI
研究者コラム

インターメディアテク・レコード・コレクション(17)
カット、スタンプ、プレス

 ネット配信が定着するまで流行ったMTVのミュージック・ビデオは、長い前史を有する。20世紀初頭からヴォードヴィルやジャズの人気奏者たちは「サウンディーズ」という短編映画に出演していた。なかでも1937年にアーヴィング・ミルズが製作した5分弱の映画「デューク・エリントンとともにレコードを製造する」は興味深い。エリントンがバンドとともに「デイブレーキ・エクスプレス」および「メイビー・サムデイ」をスタジオで吹き込んでいる姿が映り、その音源をもとにレコードが製造される過程の各段階が紹介される。即興音楽であるジャズの録音は、各テイクが唯一無二の記録となる。その貴重なマスター録音が複雑なプレス作業を経て、彫刻のように無数のレコード盤に刻み込まれるプロセスが明確に説明されている。映画をよく見ると、映っているレコードは全て「ヴァーシティ」というラベルが附されている。これはアーヴィング・ミルズが同年に立ち上げたレコード会社であり、この短編映画はそのPR映像として作られたのであった。ところが映画が発表される前に「ヴァーシティ」は倒産してしまい、映画は純粋な教材として残っている。

大澤啓(東京大学総合研究博物館特任研究員)

コラム一覧に戻る