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HAGAKI
研究者コラム

高千穂の謎

 明治27年、黄海海戦に勝利した日本帝国海軍の防護巡洋艦「高千穂」に1羽のタカが飛来し、マストに止まった。これを身軽な水兵が捕らえ、吉兆として明治天皇に献上し、高千穂と名付けられたという。当時広く報道されたようで、「高千穂艦霊鷹図」と題した日本画にはオオタカと思しき鳥が描かれている。もっともこういった絵は写生とは限らず、飛来した鳥がオオタカであったとは言い切れない。ある「献上之図」に描かれた鳥は真っ白な体で目の回りが赤く、あんな鳥はこの世に存在しない。さて、高千穂はその後、新宿御苑で他のタカと共に飼われていた。そして、山階鳥研から寄託された皇居由来の標本の中には、「高千穂」というラベルのついたハヤブサがいるのだ。もしや!? だが、名前以外の情報が不明である。台座の裏まで確かめたが、制作年代も由来も記されてはいなかった。残念ながら、これがかの高千穂だと言い切ることはできないのだ。

松原始(東京大学総合研究博物館特任准教授)

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