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研究者コラム

サクラソウ(サクラソウ科)

 サクラソウで思い出すのは、いがらしゆみこ作画・井沢満原作の『ジョージィ!』という少女漫画のなかのエピソードである。オーストラリアの牧場で育った少女ジョージィがオーストラリア総督の孫息子ロエルと恋に落ち、ロンドンへと海を渡り、二人は駆け落ち同然で下町生活を始めることになる。新たな暮らしを目前にして、これからのことを心配するお坊ちゃまのロエルに向かって、ジョージィがどんな所でも「桜草が咲いていればいいわ」と言うシーンがある。泣かせるのが、ジョージィはさらに別れ際に振り返って「ほんとは桜草じゃなくてあなたがいればいいの」とロエルに言うのである。しかし、育ちの異なる二人の恋は実らない。この少女漫画にどっぷりとはまっていた小学生の頃の私は、サクラソウという花にキュンキュンとした思いを抱き、近所の花屋で見つけたサクラソウの苗をプランターに植えて水やりに勤しんだことがあった。3階に展示中の、山田壽雄が描いたサクラソウの写生図の裏面には、「サクラサウ. 自然大. 大正3. 5 .6. 壽雄培養」との書付とともに、花が落ちた後の萼のスケッチが見られる。そこに、植物学者・牧野富太郎と仕事をした植物画家としての科学的な目を感じるとともに、勝手ながら、山田が自分で培養して可憐な花を咲かせたサクラソウへの愛着のようなものも想像してみたくなるのであった。

寺田鮎美(東京大学総合研究博物館特任准教授)

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