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HAGAKI
研究者コラム

スノードロップ(ヒガンバナ科)

 3階の常設展示の一部を更新し、『東大植物学と植物画—牧野富太郎と山田壽雄』と題して、「山田壽雄植物写生図」を展示することになった。本写生図の多くは、『牧野日本植物図鑑』など、牧野が著した図鑑の下図や参考図として山田が描いたものと考えられており、われわれに親しみのある植物をそのなかに見つけることができる。このスノードロップを眺めていて、子どものころに読んだ、ロシアの作家サムイル・マルシャークの『森は生きている』を思い出した。主人公の少女が大晦日に、12月には咲いているはずのない春の花であるスノードロップをほしいと言った女王のわがままのために、意地悪な継母の言いつけで雪深い森の中にそれを探しに行くというお話である。このスノードロップの画面右下には「マツユキソウ 一名 ユキノハナ」との書付があるが、私の読んだ翻訳児童書にも花の名前は「マツユキソウ」と書かれていた。外国の本の中に出てきた花が、ある時自分の家の庭先に咲いていると知り、興味深く眺めたことを印象深く記憶している。裏面の書付には「スナウドロップ. (実大). 大正4.3.2 動坂町122. ニテ.」とあることから、山田が同日に自宅で採集した花を実物大でスケッチしたと推定される。表面下部の「其果実. 五月五日.」とは、後日、同じく自宅で採集した実を描き、貼り付けたものだろう。山田家の庭先にこのスノードロップが咲き、実をつけていた様子を、自分の思い出と重ね合わせて想像してみた。

寺田鮎美(東京大学総合研究博物館特任准教授)

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