JPタワー学術文化総合ミュージアム インターメディアテク
HAGAKI
研究者コラム

床の記憶

 インターメディアテクの内装仕上で古式を残すのは床である。保存棟2階の展示室を歩くと、木製の床は硬く締まっていて、木造家屋の根太床のような軽やかさはない。ここで使われているのはフローリング・ブロックとよばれる材料である。木の無垢板を並べた30cm角の床材ユニットで、裏面に防水処理を施し、下地モルタルに金脚をくい込ませ、市松状のパターンに固定している。材質としては木であるが、湿式工法による頑丈な床仕上である。東京中央郵便局の1階から3階までの大半の空間は、郵便の仕分業務等を行う現業室であった。郵便物を積んだ多数の台車が局舎内を行き交っていたはずで、その動線を示す床サインの痕跡がいまも残っている。ただし、この木製床は創建当初のものではない。建築雑誌582号(建築学会、1934年3月)の巻末附図を見ると「各現業室の床はアスファルト、シート」と書かれている。初期にはアスファルト混合物だった床材が、酷使に耐えるフローリング・ブロックに早い段階で改修されたものと思われる。東京中央郵便局の壁のない大空間は、おそらく日本でもっとも苛烈な物資流動の現場であった。その歴史的空間の一部が、いまは文化的資料が定着する博物空間に生まれ変わった。往時の記憶を伝えるフローリング・ブロックは、展示物のように一つ一つが固有の表情をもっている。(なお、3階展示室の木製床は新たに敷設し直している)

松本文夫(東京大学総合研究博物館特任教授)

コラム一覧に戻る