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HAGAKI
研究者コラム

床と石材と私

 2年前、出張でスウェーデンを訪れた時のこと。ウプサラという街に数日いたのだが、最後の一泊だけ、宿泊先を引っ越した。それまで滞在していた宿が、予約の都合でそれ以上の連泊ができなかったのだ。移動先は古めかしく、もっと大きなホテルだった。石造りの螺旋階段を上って行きながら、私はふと足元に目を止めた。そこには角ばった「C」の字を並べたような模様が、白く浮き上がっていたからだ。いや、これはただの模様ではない。ベレムナイトの殻の内側にある隔壁だ。ベレムナイトは日本語では直角貝といい、中生代末に絶滅した頭足類の一種である。ものすごく大雑把に言えば、巻いていないアンモナイトだと思えばいい。大理石は海洋性プランクトンである放散虫の死骸が海底に降り積もってできるものだから、いろんな海洋生物の化石が含まれることも多いのだ。そうやって這いつくばるように階段を検分していたら、フロント係に怪訝な顔で「ミスター、どうかしましたか?」と声をかけられてしまった。

松原始(東京大学総合研究博物館特任准教授)

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