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HAGAKI
研究者コラム

博物館とフィジカル

 と言っても、美術における身体表現とかそういう話ではない。展示設営はひたすら手作業と力仕事、つまりフィジカルだという話。現在開催中の「Aves Japonicae5」を例にとろう。バックヤードからテーブルの脚と天板を運び出す。邪魔になりそうな標本を一時避難させる。棚板の高さを変えてある場所、棚板を抜いてある場所は、元に戻す(棚板は木材と鉄板で、かなり重い)。スチールの脚を棚とガラス壁の間に設置し、天板を抱いて同じ隙間に入り、標本をはたき落とさないよう細心の注意を払って天板を置く。これを3回繰り返す。そしてやっと、棚の裏から棚板の間に上半身を突っ込んで列品作業である。だが、収蔵展示室で作業するものとして、フィジカル面で最も重要なのはそこではない。展示室の角、オナガドリの後方にある棚の隙間、ここに体をねじ込んで通り抜けられるかどうかが、行動の自由度を大きく左右する。これ以上太ることは許されないのである。

松原始(東京大学総合研究博物館特任准教授)

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