JPタワー学術文化総合ミュージアム インターメディアテク
HAGAKI
研究者コラム

オーチユーの謎 その2

 さて、以前にカラスバトの剥製台座に書き込まれた「オーチユー」という謎の言葉について書いた。オーチユー、という鳥は思い浮かばないが、よく似た名前の鳥ならいる。オウチュウである。オウチュウはアフリカから東南アジア、中国南部にかけて分布する鳥だ。全体に黒っぽいものが多く、長く二股になった尾の先が巻き上がっているのが特徴。さて、この鳥、中国語では「巻尾(チュンウェイ)」である。英語だとDrongoだが、もとはマダガスカル語だそうだ。学名はDicruridaeで、ギリシャ語のdikros(二股の)が起源らしい。いずれもオウチュウにはほど遠いが、なぜ、本人が分布もしない日本でだけ、オウチュウなどという名前がついているのか。ここで妄想をたくましくしてみよう。台湾や南方でオウチュウを見た日本人と現地人の間で「あの黒い鳥はなんだ」「烏鳩のことか? あれはオーチューだ」といったやり取りがあり、勘違いの果てに「オウチュウ」として定着した、というのはどうだろう。

松原始(東京大学総合研究博物館特任准教授)

コラム一覧に戻る