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HAGAKI
研究者コラム

移動基地

 IMTには年に2度、1週間の特別閉館がある。この間に行われるのが、標本点検。館内にある全ての展示ケースを開け、標本をじっくりと見る。破損や変化がないか、虫食いやカビの兆候がないかを確認し、害虫トラップを交換し、気になる「何か」があれば顕微鏡で正体を確かめる。単なる埃なら良いが、生物由来のものである場合、カツオブシムシなど標本害虫が発生している可能性もあるからだ。木造品の歪みやクラックの点検も行われる。さらに別班はバックヤードを含めて館内の清掃、整頓を行い、キャプションの追加・訂正・更新なども行う。この作業の間、標本点検に活躍するのがキャスター付きの作業テーブルだ。ここに工具箱、防虫剤、アルコール、ピンセット、柄付き針、文房具、掃除道具、館内マップ、ノートパソコンなど一切合切を乗せ、館内を縦横に移動しながら作業を進める。この1週間、作業テーブルの行くところが仕事場になり、テーブルは移動基地、あるいは防虫母艦となるのだ。

松原始(東京大学総合研究博物館特任准教授)

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