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HAGAKI
研究者コラム

出版計画再構築中(10)

 しばらく前のことになる。「プロレタリアート(無産者)」という言葉を「プロレタリ(ア)・アート」と読んでみたらどうか、という説に出合ってびっくりしたことがあった。この面白くも意味深な解釈を唱えたのは、あの荒俣宏さんである。戦前のプロレタリア文芸は言われるほど教条主義的なものでない、けっこうイケていて、とんでもないものがゴロゴロしている。それが荒俣さんの云わんとするところであった。私は私で、「プロレタリ(ア)・アート」という言葉を見て、我が意を得たり思った。荒俣さんが再評価したプロ文芸群の、それらの中身でなく、書籍としての外装に、尋常ならざるものを看取していたからである。大正末期から昭和初期にかけて、国内の無産者運動は、革命後の「新ロシア」にその範を求めた。印刷メディアがそうである。おそらく広く世界を見渡しても、当時の日本で印行されたプロ文芸書・労農雑誌のグラフィクスほど、「ロシア革命的なもの」は滅多にない。ということで、このまま過去の歴史として埋没させていまうのは惜しい。「赤(コミュニズム)」と「黒(アナーキズム)」の図版満載の本になると思う。

西野嘉章(インターメディアテク館長・東京大学総合研究博物館特任教授)

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