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HAGAKI
研究者コラム

Province

 IMTに展示されているが、しばらく「由来不明」となっていたオオカミの頭骨がある。正確に言えば、「理解不能」だったのであるが。Canis lupusと書いてあるから、オオカミと考えていい。額段や口蓋を見てもオオカミのようだ。だが、理解しがたいのは、「Central Province」と読める走り書きがあることだ。中央プロヴァンス? フランスの? あんなところにオオカミが? もちろん、古い時代にはいた。15世紀にはパリ市内にまで侵入した「狼王」クルトーというのもいたくらいだ。だが、そんな古いものには見えない。しかもラベルの一部にキリル文字が印刷されている。なぜフランスでキリル文字? 待て。Provinceには英語で「地方」という意味もあるではないか。ならば「中央地方」という意味にすぎないかもしれない。調べた結果、モンゴルのトゥブ県は「Central Province」とも呼ばれていることがわかった。それ以外の情報を突き合わせても矛盾がない。これは、モンゴル産のオオカミの頭骨だったのである。

松原始(東京大学総合研究博物館特任准教授)

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