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HAGAKI
研究者コラム

藪の中

 普段は博物館勤務だが、鳥類の野外調査も行っている。本来はそっちが本職といってもいい。やはり野外調査がないと精神が乾涸びる。研究テーマはカラスの生活史であるが、近年、山の中でハシブトガラスを探していることが多い。丸の内にも普通にいるカラスだが、本来の生息地は森林だからである。森林のハシブトガラスはシャイで用心深い。生息環境を調べるために巣を探そうとすると、とんでもなく大変であった。カラスの行動を観察し、音声をプレイバックし、定点観察し、ICレコーダーで録音した音声から探索範囲を狭め……、それでも最後はカラスが巣に戻るのを実際に見て確かめるしかない。迷彩服を着てコソコソと林内に入ると、下生えの中に這い込み、偽装ネットを被って、息を潜めてカラスを待つ。それでも、枝に止まったカラスがじっとこちらを見て大声で鳴き始めたら、見破られているのである。

松原始(東京大学総合研究博物館特任准教授)

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