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HAGAKI
研究者コラム

録音再生の起源

 人間の声を封じ込め、それを異なる時空間で再生しようとする願望が技術的に実現したのは19世紀後半のことである。エドゥアール=レオン・スコット・ド・マルタンヴィルが1857年3月25日に録音機「フォノトグラフ」の特許を取得し、シャルル・クロが1877年4月30日に録音再生機「パレオフォーン」の設計を科学アカデミーに提出するなど、録音技術の黎明はフランスにあった。しかしこの発明を実用的な技術に結びつけたのが、1877年12月24日に米国で「フォノグラフ」の特許を申請したトーマス・エジソン(1847-1931)である。フォノグラフの原型は真鍮の輪胴に溝の切られた錫箔を巻きつけ、二つの雲母製の振動板によって録音と再生をそれぞれ行う装置であった。1878年4月24日に設立されたエジソン・フォノグラフ社はレコード産業の道を切り開いた。シリンダー・レコードを中心に音質を追求したエジソンは縦振動型の録音再生に拘ったが、主流はエミール・ベルリナーが発明した横振動型のディスク・レコードとなり、エジソン社が蓄音機製造から撤退した1929年にはディスクを中心とした市場が確立していた。インターメディアテク3階に展示しているエジソン蓄音機コレクションからは、エジソンが19世紀末から改良を重ねて追求した「音のデザイン」の系譜がうかがえる。

大澤啓(東京大学総合研究博物館特任研究員)

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