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HAGAKI
研究者コラム

痛風

 北海道出張中に、右足の親指に激痛が走り、骨折かと思って医者に飛び込んだ。痛風の発作であった。長年の豊満な食習慣のために尿酸が身体中にたまり、それが一部瓦解することによって発作が起きる。この発作と同時に、私の体の中で、免疫機構の一斉蜂起が起きたのだろう。いままで経験しなかったような体調の変化が始まった。あるときは、体の中をナメクジのような生物がにょろにょろと這いずり回り、あるときは、ピキピキ体のあちこちがしびれる。ナメクジとピキピキがお互い忍び寄り同期し、勢い高調に達すると、二度目の発作。その話を京都の医者にしたところ「どうもあんたの言っていることは痛風ではないみたいだ」という。北海道の医者の結果をもう一度、ちゃんと調べようということで、血液検査をしたが、北海道の医者の言う通り痛風という結果になった。ピキピキを音楽に例えるならば、「くるみ割り人形」『金平糖の踊り』だ。チェレスタの旋律は一見平和だが、直後に不穏なファゴットの下降音階が続く。一方、ナメクジと発作のムーヴメントは「展覧会の絵」『バーバヤガの小屋』と、家内はこれを聞いていて、「ああ、いずれもロシアものだね」と言う。この話を東京の医者にしたところ「どうもあんたの言っていることは痛風ではないみたいだ」という。京都の医者の結果をもう一度、ちゃんと調べようということで、血液検査をしたが、京都の医者の言う通り痛風という結果になった。それからおおよそ半年、治療も生活習慣改善も甲斐あって、かなりよくなってきた。いまではときどき、ウォトカをぐびとやっている。医者の言っていることはどうもいい加減だ。

森洋久(東京大学総合研究博物館准教授)

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