JPタワー学術文化総合ミュージアム インターメディアテク
HAGAKI
研究者コラム

建築の時間

 歴史的建造物の「転生」がよく見られるようになった。当初の役割を終えた建築が、その空間特性を維持しつつ、以前とは異なる機能をもった施設に生まれ変わる。2000年に開館したロンドンのテート・モダンは、旧バンクサイド発電所を改修してつくられた近現代美術館である。スイスの建築家ユニット、ヘルツォーク&ド・ムーロンは、大胆かつ抑制されたデザインによってこの設計コンペを制した。旧発電所のタービン・ホールを巨大な吹抜として残し、現代美術のインスタレーションの場として活用している。建築の転生の身近な事例を探せば、インターメディアテクは旧東京中央郵便局のオフィスを、当館小石川分館は旧東京医学校の校舎を出自とするミュージアムである。時間の流れの中で建築資産を柔軟に使い続けることは、持続可能な社会をめざす上で避けて通れない課題であろう。すなわち「建築の時間」のデザインが必要とされている。それは建築を静態ではなく動態のシステムとして捉えることにつながる。時間推移は単調で予定調和的なものとは限らず、予測不能で突発的な変化も起きる。建築の空間継承は保存と創造の営為である。

松本文夫(東京大学総合研究博物館特任教授)

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