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HAGAKI
研究者コラム

頭文字L

 ウプサラ大学博物館裏の公園で鳥を見ていたら、ひとりの老人がやって来て、同じベンチに座り、ワインを煽りながら私に話しかけてきた。残念なことにスウェーデン語なので一言もわからない。すると老人は英語に切り替え、「バードウォッチングか」と尋ねた。双眼鏡の話をしたり、手笛の吹き方を教わったりしていると、目の前のゴミ箱に1羽のカササギが舞い降りた。驚いたのはその時だ。老人がカササギを指差して、「ピカ・ピカだ。知っているか」とサラリと言ったのである。Pica picaはカササギの学名。スウェーデン語ではSkataというので全く違う。この老人は別に鳥類学者というわけではなく、せいぜいちょっとしたバードウォッチャー程度のようなのに。だが、考えてみたらカササギの学名を命名者まで書けばPica pica L. 1758だ。命名者は「L.」、イニシャルだけで済ませてよい唯一の人物、リンネその人である。さすがウプサラはリンネのお膝元と言うよりなかった。

松原始(東京大学総合研究博物館特任准教授)

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