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HAGAKI
研究者コラム

日本画の鳥たち I

 日本画に描かれる鳥は、お世辞にもリアルではないことがある。だが、それは必ずしも、画家の観察眼そのものの限界を示してはいない。絵とは「その時代とその技法のお約束」でしか描かれないものなのだ。近代科学発祥の地であるヨーロッパとて、18世紀の博物画を見てみれば、そこにとんでもないデフォルメを見て取ることができようし、年代を追ってデフォルメが変化してゆくのも追うことができる。河辺華挙の編纂した「鳥類写生図」を見ると、絵師が研鑽を積むための、完成された絵の背後に隠された観察眼というものがよくわかる。そこには明らかに死骸とわかる、ダラリと横たわった鳥が描かれ、色合いやサイズ、羽毛の枚数までが記入されているのである。種名も書き込まれているが、それを読まずとも、絵だけで十分に同定できる精度である。こういった精緻なデッサンを理解した上で、型式通りの日本画の構図に落とし込んだのであろう。

松原始(東京大学総合研究博物館特任准教授)

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