JPタワー学術文化総合ミュージアム インターメディアテク

ごあいさつ

皇居や東京駅など伝統的建造物群と現代の先端的商業施設が彩る東京丸の内の高層ビルJPタワー/KITTE。そこに、それらとは場違いにも見える鉱物や化石、生物、民族考古資料などの博物標本が一世紀あるいはそれ以上も前の大学什器とともに荘厳な雰囲気の中にならんでいる——。

この一見、不思議な光景を醸し出す空間、インターメディアテク(「間メディア実験館」)は、2013年に開館しました。JPタワー/KITTEを運営する日本郵便株式会社とミュージアムのあり方について研究を続ける東京大学総合研究博物館が協働して、現代社会におけるミュージアムの役割を追求すべく創設された公共貢献施設です。

館名に含まれるメディアとは、特に情報伝達にかかわる手段のことを言います。昨今、それは、SNSをふくむオンライン・メディアのことだと受け止める方が多いかも知れません。しかしながら、インターメディアテクでは、目に見え、感じることができる実物や現場こそが、多様な情報伝達手段の結節点だと考えています。この発想は、文字も画像もない太古の時代の情報伝達の根源を扱う考古学や人類学の研究成果に通じるものです。そこでは、実物や現場が発するメッセージはそれらがおかれた場所や見る者の受け止め方によって異なっていて、その様態は社会を映し出す鏡になりうる、とも主張されています。

メディアのありようが変貌しつつある現代だからこそ、ミュージアムがどんな存在であるべきなのか。その考察にあたり、人類が長く用いてきたメディアの原点である実物の最大限の利用に立ち返った展示空間を創出し、来訪者とともに考える場を設けることは意義あるものと考えます。

東京大学のキャンパス内におかれていた学術標本や什器が東京丸の内の商業施設に現れたミュージアムに展示される時、それらは異なる意味を発していることでしょう。来館者のみなさまには、まずは、説明書きにとらわれず館内を散策し、個々の展示物や空間が発するメッセージを楽しんでください。そのうえで、本事業が、ミュージアムのあり方を考察し、その発展に資する目的をもってすすめているものであることに、ご理解ご支援をたまわればさいわいです。

東京大学総合研究博物館長/インターメディアテク館長
2022年4月  西秋良宏