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HAGAKI
研究者コラム

ミュージアムとジェンダー(6)
Museum and Gender 6

 ミュージアムの展示にジェンダーの視点を取り入れることは、近年、私が展示企画に関わる際に意識している課題である。ただし、展示の趣旨を言語化する時に、その視点を前面に押し出すとは限らない。特別展示『植物顔––日本・フィリピンの草木花実写真』でも、まず来館者には、フィリピンと日本の在来植物、そしてそれを取り巻く自然環境や文化的文脈への理解を深めてほしいという意図を言葉で伝えてきた。一方で、印刷物のヴィジュアルでは、複数のメインヴィジュアルを用いることで、ミュージアムとジェンダーの関係に対する問題意識を、言葉ではなく視覚的に示そうとした。たとえば、制作した二種のポスターでは、ジャン・マヨの作品からフィリピンと日本それぞれの在来植物を選び、フィリピンの植物は女性モデル、日本の植物は男性モデルという組み合わせを採用している。この選定は意図的なものであり、マヨ作品に登場する多様な男女のモデルがあってこそ成り立つ。マヨの作品における人物表象は、「見られるために描かれた女性」や「権力をもつから描かれた男性」といった伝統的な肖像イメージとは異なる。展示企画者として、来館者にはぜひその点に注目してほしいと考えていた。展示準備の段階で、私がミュージアムとジェンダーの問題(特に日本での)について話した際、マヨ自身も作品づくりにおいてジェンダーインクルーシブな視点を重視していると語っていた。一方、特別展示の来館者アンケートには、女性モデルだけが花で飾られた作品であると批判的に捉えたコメントがあった。そのコメントを寄せた人たちは、ジェンダーの問題に関心が深く、無関心な層よりも感度が高いと考えられる。だからこそ、こちらの意図が十分に伝わらなかったもどかしさを覚えると同時に、関心の高い層のなかにも、女性と花の組み合わせを見た瞬間にジェンダーの問題へと直結させてしまう潜在的な偏見や、第一印象の段階で作品を拒んでしまう排除的な態度があるのではないかと感じた。私自身も、そうした分断を自ら生じさせていないかを振り返ることになった。マヨの作品や展示企画の根底には、われわれが無意識のうちに抱くジェンダーのステレオタイプを問い直し、多様なアイデンティティのスペクトラムを映し出したいという思いがある。それを来館者にどうすればより深く感じ取ってもらえるのか。今回、その難しさを改めて実感した。課題への模索は、これからの展示でも続けていきたい。本特別展示は11月9日まで。

寺田鮎美(東京大学総合研究博物館特任准教授)
Ayumi Terada

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