JPタワー学術文化総合ミュージアム インターメディアテク
HAGAKI
研究者コラム

標本と写真の時間感覚
The Sense of Time in Specimens and Photographs

 特別展示『植物顔––日本・フィリピンの草木花実写真』は展示更新を経て、9月8日より後期展示が始まった。ジャン・マヨが小石川植物園で今春に撮り下ろした日本の植物の写真とそれに対応する標本を組み合わせた計8セットが新たにお披露目されている。標本には、東京大学植物標本室所蔵の歴史的なものに加えて、マヨが撮影対象にした植物と同じ木や場所から採集した新規作成のものが含まれる。新規標本は採集者の一人にマヨの名前を記録し、なかにはきれいに色を留めているものもある。同じ日に採集して作成した標本にもかかわらず、植物によって、かなり鮮やかな色が残るもの(写真のヤマブキ)もあれば、変色しつつあるが元の色をまだ伝えるもの(ムラサキオンツツジやイロハモミジ)、ほぼ茶色に変化したもの(フキ)と差があるのも興味深い。そして、同じ日に小石川植物園内で花を咲かせていた植物をマヨが撮影した写真と比べてみると、そこには過去の一瞬とその後の数ヶ月の時間経過が重なり合い、同じ植物の確かな生命力を感じることができる気がする。さらに視線を数十年、あるいは百年以上前に採集された標本に移せば、その長い時間経過にもかかわらず、標本が植物の構造を伝える科学資料としての本質的役割を情報を失うことなく果たし続けているという事実に驚嘆せざるを得ない。時間は刻々と過ぎ去っていく。そのなかで、展示空間にてマヨの写真と標本との組み合わせを見るわれわれが体験する時間感覚は、まさに奇跡的な一瞬一瞬なのである。

寺田鮎美(東京大学総合研究博物館特任准教授)
Ayumi Terada

コラム一覧に戻る