JPタワー学術文化総合ミュージアム インターメディアテク
HAGAKI
研究者コラム

台湾の多層的な歴史を伝える蘭
Orchids That Tell a Multilayered History of Taiwan

 台湾の国立歴史博物館では現在、『台湾蘭花百姿––台北展』が開催されている。2フロアにわたって展開する台北展は、2025年2月から6月にインターメディアテクで開催した東京展を経て、企画の集大成にふさわしい規模とヴァリエーションを実現している。会場には、そのタイトル「台湾蘭花百姿」が示す通り、台湾の豊かな蘭の博物誌を物語る多様な展示物が並ぶ。台湾で初めて公開された東京大学コレクションの植物画(写真上)と、国立歴史博物館が所蔵する蘭の書画(写真下)のオリジナル作品を、実際の展示空間に一堂に陳列できたのは、展示企画者の一人として、まさに夢が叶った瞬間といえる。7月初旬、設営中の会場を訪れた際、国立歴史博物館所蔵の蘭の絵画が並びつつあるなかで、それらのいくつかは、画家が友情の証として友人に贈った作品であるという話を同館キュレーターから伺った。その時に思い起こしたのが、「金蘭の交わり」という言葉である。「金蘭」とは、非常に親密な交わりや厚い友情を例えている。この言葉は漢字文化を共有する台湾でも広く知られてきたこと、そして、蘭の絵画は蘭を描いた美術作品であると同時に、そうした文化的背景を伝える歴史資料でもあるということを、改めて実感する出来事となった。このように、『台湾蘭花百姿』展の準備を通して、蘭というテーマのもとに集めた資料から、台湾の歴史をさまざまな視点から学ぶことができたのは、私にとって非常に貴重で興味深い経験であった。この点は、台北展はもちろん、東京展と台北展の展示内容を反映した総合図録においても、間違いなくハイライトの一つとなっている。台北展の会期は9月7日まで。台北展の様子を収めた映像を含め、『台湾蘭花百姿』展のために制作した映像は、インターメディアテクのYouTubeチャンネルにて公開中。また、総合図録はIMTブティックにて販売している。多くの方にご覧いただければ幸いである。

寺田鮎美(東京大学総合研究博物館特任准教授)
Ayumi Terada

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