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HAGAKI
研究者コラム

ジャン・マヨのレンズが捉えた日本の草木花実
Japan’s Native Flora through the Lens of Jan Mayo

 ジャン・マヨによる「Faces and Flora」シリーズは、まず2023年から2024年にかけて、フィリピンの在来植物を対象に制作された。続いてマヨは、2025年4月、特別展示『植物顔––日本・フィリピンの草木花実写真』のために、東京大学大学院理学系研究科附属植物園(小石川植物園)にて、日本の在来植物を新たに撮影した。ソメイヨシノ(写真右)は、開花予測や開花宣言がニュースで報じられ、花見を楽しむ人々の姿とともに、日本の春を象徴する花として広く親しまれている。これほど身近でよく知られた花でありながら、マヨが白い背景のもとでクローズアップした静物写真は、われわれがふだん花見で仰ぎ見る桜とは異なる姿を、圧倒的な存在感で目の前に浮かび上がらせる。モデルの顔に配された花びらもまた、見る人の視線を自然と植物そのものへと引き寄せていく。ニワトコ(写真左)は、春に若芽を天ぷらやおひたしにして食したことがある人も多いだろう。一方で、マヨのレンズを通して見るように、小さな花が散房状についた様子を間近でじっくりと鑑賞した経験のある人は、意外と少ないかもしれない。マヨが活動拠点とするマニラも、インターメディアテクが立地する東京も、都市空間は人工物に満ちている。そうした環境のなかで、本シリーズの新作は、日本で馴染み深い草木花実がもつ自然の色や形の美をストレートに訴えかける。そして、人工物に囲まれた都市生活と在来植物の生命感とが対比をなすと同時に、在来植物と人とのつながりへの関心を喚起しようとする強いメッセージ性を帯びている。「日本の植物」パートの展示は、マヨの新作をすべて紹介するために、前期・後期で展示を更新する。前期展示は8月31日まで、後期展示は9月9日より公開予定である。

寺田鮎美(東京大学総合研究博物館特任准教授)
Ayumi Terada

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