東京大学総合研究博物館とフィリピン国立博物館の国際協働による展示企画、特別展示『植物顔––日本・フィリピンの草木花実写真』が始まった。本展示では、フィリピン・マニラを拠点に活動するジャン・マヨを特別パートナーフォトグラファーに迎え、日本およびフィリピンに自生する植物で顔を飾ったモデルのポートレート写真と植物の静物写真を、植物学研究の基礎資料となる植物標本と組み合わせて紹介している。展示タイトル「植物顔」は、「Faces and Flora」という英語タイトルを日本語に置き換える際に構想した造語である。「Faces and Flora」が伝えようとする「顔」と「フローラ(植物相)」の結びつきには、フィリピンと日本の在来植物、そしてそれを取り巻く自然環境や文化的文脈への理解を深めてほしいという意図が込められているが、「植物顔」はその翻訳というよりも、日本語で新たに生み出したコンセプトといえる。私なりにこの言葉を説明するならば、マヨの作品に登場する、植物で装われたモデルの顔は、化粧や装飾といった次元を超え、植物が顔の一部として融合したようにも見える。その姿はまさに「植物顔」と呼ぶにふさわしい、新たな造形物へと変容している。この変容は植物側にも及び、それぞれのパーツには確かに種の特徴が残されているものの、モデルの顔の上で再構成されることにより、新たな芸術的生命形態が生まれている。このように、人と植物の両者における二重の変容こそが、「植物顔」というコンセプトの核心である。同時に、「植物顔」とは、この造語を見聞きした人の関心を引きつけ、想像力を刺激することができれば、それだけで展示タイトルとしての役割を十分に果たしている。この言葉には、展示を見た人それぞれが自由にイメージをふくらませる余地がある。
寺田鮎美(東京大学総合研究博物館特任准教授)
Ayumi Terada