小石川植物園で開催中の特別展示『植物顔 – 小石川植物園の花木』では、写真家ジャン・マヨが2025年4月に同園内に生育する植物を用いて撮影した「Faces and Flora」シリーズを、撮影の場となった植物園のなかで野外展示として公開している。展示パネルを構成するのは、植物で顔を飾ったモデルのポートレート写真、植物そのものをとらえた静物写真、そしてそれらに対応する東京大学植物標本室(TI)所蔵のおし葉標本の写真である。展示パネルは、菱形に組まれている。これは野外展示としての強度を確保するためでもあるが、同時に、鑑賞のあり方に変化を生むための構造でもある。見る角度によって、マヨが撮影した静物写真と、それに対応するおし葉標本の写真だけが目に入ることもあれば、モデルの顔だけが浮かび上がることもある。また、それらを手がかりに園内の植物へと目を向けることで、植物の多様な姿に触れることができる。写真作品、おし葉標本の写真、そして園内の植物は、植物園という場のなかで、立つ位置に応じてさまざまに組み合わされて見えてくる。たとえば、イロハモミジの作品の近くには、マヨが撮影対象としたイロハモミジが並木として生育している。来園者の視線がどこから始まるかは、人それぞれだろう。マヨの写真作品を見る。おし葉標本の写真を見る。そして、すぐそばにあるその木々を見る。視線は、写真作品とおし葉標本の写真と、園内に根を張る植物のあいだを行き来する。2025年4月、マヨが撮影した時のイロハモミジは花をつけていた。2026年5月、この展示を設営した時には、すでに翼果が見え始めていた。植物園の植物は、おし葉標本とは異なるかたちの「生きた標本」である。標本としてそこにありながら、日々、季節とともに姿を変えていく。写真作品とおし葉標本の写真に、「生きた標本」としての植物の時間が重なっていくこと。そこに、この野外展示を植物園で見る意味がある。会期は8月16日まで。
寺田鮎美(東京大学総合研究博物館特任准教授)
Ayumi Terada