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RESEARCHERS COLUMN

台北植物園の蘭温室と池
The Orchid Greenhouse and Small Pond at the Taipei Botanical Garden

 台湾の農業部林業試験所標本館には、20世紀初頭、台北植物園内にあった林業試験場時代に撮影されたガラス板写真が残されている。そのなかに、当時の林業試験場の蘭温室の内部を写したものがある(画像右)。この温室の建物が現存すると聞き、2024年12月、『台湾蘭花百姿』の図録の印刷会議のために国立歴史博物館に行き、そこからすぐ裏手にあたる台北植物園を訪れた際に、ぜひ見てみたいと現地に赴いた。温室の前で、案内くださっていた園長の范素瑋さんに、『台湾植物写真集』に載る、台北植物園で1927年4月に撮影されたカトレヤの写真(画像左)を見せて、後ろに映る小さな池から撮影場所が特定できないかと聞いてみた。すると、温室の正面にあり、いまはホテイアオイがびっしりと群生している小さな池がそれであることが判明した。写真と同じと思われる池の縁石も見つけた。『台湾植物写真集』のカトレヤの写真は屋外で撮影されている。中央アメリカとコロンビア地方原産のカトレヤが、当時、台北では屋外で栽培されていたのかと疑問に思っていたのだが、蘭温室から鉢植えを屋外に持ち出し、すぐ近くの池の前で撮影したのだろうという状況が推定できた。鉢が写り込んでいないのは、自然光のもと、カトレヤの花をより自然に園内の風景に溶け込ませたいという写真家の芸術的感性のためかもしれない。『台湾蘭花百姿 – 東京展』の展示会場では、蘭温室の写真と池の前で撮られたカトレヤの写真が、偶然にも実際の位置関係に近いかたちで展示することができた。つまり、池を背景にしたカトレヤを正面に眺めて、右後ろに振り返ると、蘭温室の内部が見える。東京展は6月8日まで。

寺田鮎美(東京大学総合研究博物館特任准教授)
Ayumi Terada

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