JP Tower Museum INTERMEDIATHEQUE
HAGAKI
RESEARCHERS COLUMN

植物画家マティス
Francisco Javier Matís Mahecha, Botanical Artist

 特別公開『カトレヤ変奏―蘭花百姿コロンビアヴァージョン』では、木版画『蘭花譜』の展示更新に合わせて、植物学者ムティスが率いたコロンビア植物探検調査により現地コロンビアで描かれた植物画のうち1点も入れ替えを行っている。第4回展示で紹介するのは、『新グラナダ王国の王立植物探検隊の植物相』第11巻 第51図版「プシコプシス・クラメリアナ」である。ムティス・コレクションの植物画は、署名の入っていないものが大半を占めるが、本図には、フランシスコ ハビエル・マティス マエチャ(1763−1851)という植物画家の署名が確認できる。マティスは、1783年から1812年まで、ムティスの指揮するコロンビアの植物相の記録に最も長きにわたり参画した植物画家で、署名を残している画家のなかではその作品数が最も多い。花の解剖図のすべて、少なくとも大部分を手がけたと考えられており、ムティスからは解剖を担当する熟練した植物学者としても信頼を寄せられていたという。そして、ドイツの博物学者・地理学者のフンボルトは、南米探検調査の際にマティスの仕事に触れ、彼を「世界最高の花の画家」と称したと伝わる。最近目にしたある論文では、近年、一部にマティスの署名の入った小さな鉛筆画21点が新たに発見され、そのうち10点の図像が展示中の「カトレヤ・トリアナエ」(写真右の彩色画)を含むムティス・コレクションの植物画に一致したが、分析の結果、鉛筆画がコピーであり、マティスの署名もコピーされたものであるとして、マティスの贋作という結論が示されていた。署名のない「カトレヤ・トリアナエ」がマティス作品であると判明したのか、鉛筆画が下図であったとしたらマティスの植物画制作プロセスの一端がわかったのかと期待して読んだ論文であったが、その斜め上を行く、マティスとは贋作が作られるほどの植物画家であるという興味深い事実を確認することになった。第4回展示は4/25−5/14まで。

寺田鮎美(東京大学総合研究博物館特任准教授)
Ayumi Terada

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