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ケ・ブランリ・トウキョウ『純粋形態――アフリカ諸部族の貨幣』

2014.02.25-2015.02.15
SPECOLA

 第二回ケ・ブランリ・トウキョウでは、チャド、ナイジェリア、カメルーン、中央アフリカ共和国、コンゴ、ガボンからアフリカ諸部族の貨幣を約20点展示いたします。これらは、古代から貨幣として流通し、純粋にして完璧なフォルムを有しています。


 現代世界に生きるわれわれは、流通貨幣といえば、長方形の紙幣と円形の補助硬貨をすぐに思い浮かべる。これらに、「ペーパー・マネー」と呼ばれる、物質的な裏付けをもたぬまま金融界に溢れかえっている通貨を加えたなら、世界経済を支える貨幣のすべてが出揃う。とはいえ、いずれであるにせよ、意匠(デザイン)が云々されることはあっても、形状が問われることはない。というのも、現代の貨幣経済はアラビア数字による記号交換システムの上に成立しているからである。しかし、こうしたシステムがはたして普遍的なものなのか、問い直してみることがあっても良いのではないか。実際、西欧文明の埒外に置かれていたプレ近代社会の貨幣は、形状も、材質も、決して一様でなかった。アフリカ各地の部族社会で使われていた金属貨幣は、経済活動の原初がモノとモノとの交換の上にあったという歴史的事実を、あらためて想起させてくれる。モノの価値は、そのモノの稀少性や有用性、そのモノがまとう形態美によって定まる。貨幣の場合には、なによりもまず携行しやすいモノでなくてはならなかったし、材料もまたモノとして価値あるものでなくてはならなかった。外見がいかに多様であるとはいえ、多くの貨幣が抽象性の高いかたちをしているのは、価値交換のための媒介物として機能させるため、人の手になるモノであることを明示する必要があったからかもしれない。展示品にはどれも、わずかながら装飾が施されている。プレ近代の貨幣にあっては、装身具の場合がそうであるように、職人の労働価値もまた、貨幣価値の一部を成していたのである。

西野嘉章


 世界中の貨幣は多様性の宝庫である。それぞれの文化が最も貴重かつ稀少と見なす材料に高い価値を付与しているからである。近年になって通貨における物質的素材が廃されるまで、貝殻、金や銀、織物、羽根が貨幣交換を決定してきた。
 武器と貨幣の関連性。このアフリカに見られる事象には驚かされるかもしれない。しかしながら、貨幣原理とは、規格統一され、識別可能で、反復可能なかたちに立脚している。アフリカでは、冶金術に高い有用性が認められた。つまり、鍛冶屋のもつ政治的・宗教的な重要性ゆえに、象徴的な交換貨幣として鍛造した金属が選ばれるに至ったのである。
 武器がもつ威信と美は、まさに威信を交換すること、すなわち、持参財産やさまざまな代償の取り交わしに結びつけられてきた。ひとたび蓄えておけば、金属は容易に保存可能であり、長距離を超えて持ち運びやすい財産となった。アフリカの貨幣の多くは、それを作り出した集団の同定が可能ではあるものの、近隣の集団のあいだで広く共有され、流通していた。
 古代よりアラビアとアフリカ内部では、ナイフ、剣、あるいは斧の刃の形状は少しずつ活用変化している。人を殺めるための武器は、生死を支配する人間が握っており、位階や権限の授与、秘儀伝授の儀式、葬儀に必ず介在している。
 刃、槍、鍬に見られる純粋なかたちは、鍛冶屋が精通している形状であった。武器におけるかたちの様式化こそが、貨幣のかたちに影響を与え、アフリカ美術が他を卓越してきた新たなかたちをも創造していることは間違いない。
 本展示は、ケ・ブランリ美術館のコレクションより、かたちの美しさと純粋さの観点から選ばれた貨幣コレクション15点を紹介するものである。かたちが機能と最も良く調和するとき、芸術の精髄が称賛されるならば、アフリカ大陸全体から集められた本貨幣コレクションはそれを伝えている。

イヴ・ル・フール

企画構成:イヴ・ル・フール(ケ・ブランリ美術館コレクション部長)
後援:クリスチャン・ポラック氏+株式会社セリク

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ケ・ブランリ・トウキョウについて

 世界中にはさまざまな文明が生み出した力強く不思議な形態が存在する。その多様性は驚くばかりであるが、これらを日本で目にする機会は少ない。そこで、パリのケ・ブランリ美術館のコレクションから選りすぐりのアイテムをここに展示し、ひとつの邂逅の場として設えた。この展示は、周囲の東京大学コレクションと時に共鳴し、時に対立することで、見る者に対し、人類が大いに関心を寄せるべき問題を投げかけるだろう。本プロジェクトはケ・ブランリ美術館とインターメディアテクとの新たな文化的・学術的協働からなる。これによって、フランス国立ミュージアムが東京の中心に長期的活動拠点を獲得することになった。人々がもつ既存の世界観の転換を図るべく、アフリカ、アジア、オセアニア、南北アメリカの諸地域から象徴的なアイテムを選定し、定期的に展示更新を行う予定となっている。本拠点がすべての文化、時代、領域の交叉する創造的結節点として機能するために、ケ・ブランリ美術館とインターメディアテクはいままでにない方法論を共有し、分野横断型のミュージアム活動を推進していく。

企画:ケ・ブランリ美術館+東京大学総合研究博物館
後援:クリスチャン・ポラック氏+株式会社セリク



ケ・ブランリ美術館

 ケ・ブランリ美術館は、2006年6月パリに開館した。アフリカ、アジア、オセアニア、南北アメリカ美術を展示していたルーヴル美術館の「パビリオン・デ・セッション」を前身とする。ジャック・シラク元大統領(1995-2007年)が建設計画を推進し、建築家ジャン・ヌーベル(2008年プリツカー賞受賞)が設計を担当した。西洋中心主義を脱し、アフリカ、アジア、オセアニア、南北アメリカの芸術や文明に対し、文化的・宗教的・歴史的影響が交差した複眼的な視点から、それらにふさわしい評価や解釈を行うことに活動の中心を置く。学術的・芸術的対話のための場所として、また、市民・研究者・学生・現代芸術家をつなぐ交流拠点として、さまざまな展覧会、コンサート、催し物、シンポジウム、ワークショップ、上映会を定期的に開催している。

写真 © C. Germain / Musée du quai Branly
http://www.quaibranly.fr/en/

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