JPタワー学術文化総合ミュージアム インターメディアテク

特別展示『驚異の部屋――京都大学ヴァージョン』

2013.11.01-2014.05.25
MODULE

このたび、東京大学総合研究博物館と京都大学総合博物館は、東京駅前丸の内側JPタワー内の「インターメディアテク」の企画展示スペース「モデュール」において、共催事業「『驚異の部屋』京都大学ヴァージョン」東京展を開催することになりました。
 本展は、京都大学総合博物館の所蔵する学術標本コレクションのなかから、旧制第三高等学校の遺産を中心とする歴史的な標本約五十点を選び出し、一般に公開しようとするものです。
 ご存じの通り、京都大学と東京大学の両校は、いずれも官制大学を前身とする国立大学法人ですが、これまで学術標本を用いた博物館レベルでの協働企画展をおこなう機会に恵まれませんでした。また、大学博物館等協議会に加盟している国内諸館のあいだでも本展のような、二館協働の本格的な特別企画が実現したためしはありません。現代社会における大学博物館の存在意義と学術的使命を広く社会へ伝えるために、そしてまた大学博物館に蓄積されている学術標本の博物資源的価値を再評価するために、本展開催の意義は少なくないと考えます。
 東京大学総合研究博物館は、一九九六年春に「大学博物館」として新発足して以来、「東京大学コレクション」を副題に掲げた連続企画展を開催してまいりました。それらの展覧会は、学内各所に自然集積されてきた学術財の標本化・目録化を主目的とするもので、幕末から昭和前期に亘る歴史的な学術遺産の再評価を促すきっかけとなりました。戸籍情報を失ってしまった標本、いまだに記載の済んでいなかった標本、あるいはそれらの自ずからなる帰結として、廃棄寸前ないし廃棄同然の状態にあった標本——危機に瀕していたそれら学術遺産のなかには、展示公開を契機として、忘却の淵から救済され、記載目録化を経て、復権を果たしたモノも少なくありません。
 東京大学総合研究博物館は、「コレクション」展と別に、すでに学術的な価値を失効したと目される標本・教材・試作品等を収集し、修復し、改めて記載し、評定し、公開する事業も進めています。「驚異の部屋」なるテーマの下で実現したいくつかの特別展示がそれです。今日のミュージアムの祖型とされる「驚異の部屋」は、プレ近代の知的な思考モードが生み出した「モノの小宇宙」に他なりません。欧米から招聘された御雇い外国人教師の勧めに従い、帝国大学が整備に努めた「博物場」、「列品室」の原風景も、そのようなものだったに違いありません。そこに、現代の文化施設が失って久しい「豊穣なる混沌」、「創造の霊感源」を見たいのです。
 旧帝大の収蔵庫に蓄えられた学術標本や教育教材のなかには、天産品にせよ人工物にせよ、学術的な価値と別に、姿形という面で質的に高度で、いまなお審美的な鑑賞に堪え得るものがたくさんあります。言葉を換えるなら、工芸(アプライド・アート)と学術(サイエンス)の分水嶺は、一般に考えられているほど急峻でないということです。ですから、それらが内在する価値の総体を計るに、学術的な尺度だけをもってするわけにはゆきません。すなわち「観照」という眼を介しての経験的な価値裁定が請われる所以なのです。なによりもまず、自分の眼でよく見ることが大切です。
 より「よく見る」ことへ誘うために、見せるための工夫も大切です。展示の仕方に注意深くあらねばならないというのもそのためです。わたしたちが古い学術標本を展示する際、それらの揺籃であった十九世紀風の陳列場の雰囲気に意識的であり、かつまた、そこに時代の要請に適うデザイン・ワークを組み込もうとするのは、古びた学術遺産を有用な博物資源として二十一世紀社会のために活かしたいと考えるからなのです。
 東京大学総合研究博物館の一連の公開事業も、これまでは東大標本を使ってなされてきました。ですから、本展は京都大学総合博物館に収蔵された貴重な学術標本を東日本の公衆に公開する初めての機会となります。本展は、東京の会期終了後、京都大学総合博物館でも公開が予定されています。


主催:東京大学総合研究博物館+京都大学総合博物館
協力:京都大学大学院人間・環境学研究科

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