JP Tower Museum INTERMEDIATHEQUE
HAGAKI
RESEARCHERS COLUMN

本質と抽象化
Essence and Abstraction

 特別展示『極楽鳥』に並ぶ宝飾品の名作から目玉を選ぶのは困難である。しかし会場の奥の部屋に列品されている、フランス人宝飾作家ピエール・ステルレ(1905-1978年)による作品は、いつ眺めても新たな発見がある。同年代のアヴァンギャルド芸術に敏感だったステルレは、その関心の的であった「動き」や「速度」の表現をジュエリーにおいて試みている。写実的な表現を完全に排除した鳥のブローチのシリーズには、抽象彫刻の大家コンスタンティン・ブランクーシ(1876-1957年)による『空間の鳥』はもちろん、その時代の先端技術であった航空工学の影響をも見受けられる。ステルレは鳥のブローチを作るにあたって大きい、特徴的な貴石を鳥の胴体に見立て、金属と小さい石で頭部、翼や尾を表現している。その結果、極度に抽象化された作品は特定の鳥ではなく「飛翔する生物」の本質を捉えている。造形がここまで極端だと、色彩には写実的な役割がなく、恣意的な要素になる。これもまたフォーヴィスムから抽象絵画まで、同年代の芸術の理念に呼応している。

大澤啓(東京大学総合研究博物館特任研究員)
Kei Osawa

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