JP Tower Museum INTERMEDIATHEQUE
HAGAKI
RESEARCHERS COLUMN

成長計画
Growth Plan

 博物館や図書館では施設の「成長」が課題となる。収集資料が増えるにつれて保管場所や展示空間が不足し、建物の増床や増築の可能性が検討される。「成長」は近代建築に潜在する課題であるが、あらかじめ計画するのは容易ではない。これを意識的に取りあげた建築家はル・コルビュジエである。彼は1939年の無限成長美術館計画において、四角い螺旋状の展示室を外に拡張していく仕組みを考えた。付加成長の戦略であり、上野の国立西洋美術館(1959)にその発想の痕跡を認めることができる。一方、磯崎新は大分県立大分図書館(1966)の設計に際してプロセス・プランニングを提唱した。建築プログラムを動態的にとらえ、延伸可能な樹状のスケルトンによって全体が構成されている。結局、上野も大分もイメージのように増築されることはなかった。成長の成功事例として、デンマークのルイジアナ近代美術館がある。海に面した森に建てられた美術館は、1958年の竣工から7段階にわたって増築されてきた。回廊と展示室がネックレスのように繋がれ、アートの理想郷ともいうべき現在の姿に至っている。その根底にある思想は、建築を閉じずに開くこと、そして空間を分けずに結ぶことである。さて「成長」の問題は、建築における時間の考え方に行きつく。ノルウェーのヘドマルク博物館(1979、写真)は、異なる時代の建築が一体化された施設である。敷地にある13世紀と18世紀の遺構を残したまま、その上に20世紀の博物館が重ねられた。設計者のスヴェレ・フェーンは新しい素材や構造を慎重に挿入し、新旧の要素を自律的に共存させている。博物館の成長は空間的であるとともに時間的である。その継承の理念が問われている。

松本文夫(東京大学総合研究博物館特任教授)
Fumio Matsumoto

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