JP Tower Museum INTERMEDIATHEQUE
HAGAKI
RESEARCHERS COLUMN

一巻の終わりに
In the end of the scroll

 現在開催中の「Aves Japonicae(7)」では川邊華挙の鳥類写生図第捨七巻を最初から最後まで、3回に分けて展示している。展示企画中のためこの巻物を広げた時、最後にサプライズがあった。巻物が細くなり、「これで最後だな」と思った時、何か手触りが違うと感じたのだ。ほどき終えた巻物から出てきたのは、一本の毛筆だった。他の巻ではスギか何かを削った棒を芯にしていたのに。筆には墨の跡が残り、使われていたことが伺える。丸筆だが、穂先が傷んでいるようで元の形はよくわからない。チビた書筆もあり得るかと思ったが、触ってみると中心部に硬い心毛がなく全体に柔らかいので、どうやらこれは画筆である。いずれにしても、「この巻のみ悪徒に貸し出すこと厳禁」と墨書された大事な粉本の果てに筆がいたことに、何やら画家の魂が込められているかのような感慨を感じて、この筆も展示してある。いや、単に手元にちょうど良い古い筆があったので芯代わりに使っただけ、ということも大いにあり得るのだが。

松原始(東京大学総合研究博物館特任准教授)
Hajime Matsubara

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