JP Tower Museum INTERMEDIATHEQUE
HAGAKI
RESEARCHERS COLUMN

コロナ禍中の、謹賀新年

 今年、インターメディアテクは開館以来八度目の春を迎える。昨年は春先から「新型コロナウイルス」の感染拡大という、思いもかけぬ事態に見舞われた。そのため社会生活を動かす歯車という歯車に狂いが生じ、世界中が大混乱に陥った。否、いまだ陥ったままにある。「ニューノーマル」などの造語を弄して平静さを繕おうと努めてはみるが、眼に見えぬウイルスの伝播力はいかんともし難い。というわけで、いまだ収束のきざしさえ見えてはこない。「テレワーク」の定着は、日常における新たな労働形態の拡大普及という意味で歓迎すべきものかとも思う。とはいえ、ミュージアムにとっては深刻極まりない事態である。標本、史料、文書など、「モノ」を扱わねばならぬため、リアルな現場仕事を回避できぬ職場だからである。普段から集客のために知恵を出し合ってきた職員たちもまた、「三密」を避ける業態の実現を目指すなかで、その存在の自己否定を強いられている。集客事業の代案として、多くのミュージアムはウェッブ上でのコンテンツ開陳に走り始めた。しかし、それで良いのか、とわたしなどは思う。人類が生存の危機に瀕したとき、ミュージアムにはなにができるのか。そのことと真剣に向き合わぬままにいると、無用論も興りかねない。それが危惧されるだけに、事態は深刻である。年の変わり目であるとないとに関わらず、ミュージアムはいま「冬の時代」、というより「極寒の時代」の真中に立たされている。そんななかにあって、どこからか一条の光が射し込んで来ないものか、そう願いつつ、謹んで新年のあいさつを贈るこことしたい。

西野嘉章(インターメディアテク館長・東京大学総合研究博物館特任教授)

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