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HAGAKI
RESEARCHERS COLUMN

図版LXXXIX—R.M.

 この色鮮やかな図版は、1915年にレイ・ソサエティより出版された『総説・英国の環形動物 第3巻第2部』に収録されている、「図版LXXXIX」である。セント・アンドリュース出身の海洋生物学者、ウィリアム・カーマイケル・マッキントッシュ(1838-1931)が中心となって書かれた同書は、環形動物のなかでも多毛類についての図版と解説をまとめたものである。本図版には5匹の多毛類が描かれているが、これらは1人の画家によるものではない。左下にイニシャルで小さく作者が記されており、図1(1番下), 図3(1番左), 図4(1番右)をR.M.が、図5をF.B.が、図2をA.H.W.が描いたと読み取れる。R.M.は、ウィリアム・マッキントッシュの妹、ロベルタ・マッキントッシュ(1842-1869)のことである。ウィリアムは妹の絵の才能をたいへん誇りに思っており、環形動物の絵の展示を開けるよう手配したこともあったという。ロベルタが残した写真帖には、顕微鏡を前に作業する兄を描いたページがある。研究に集中する兄の姿は、その研究を支えていた妹にとってお馴染みの光景だったのであろう。ロベルタは、動物学者アルベルト・ギュンター(1830-1914)と結婚し1868年にロンドンへ引っ越したが、すぐに若くしてこの世を去った。1873年に出版された『総説・英国の環形動物 第1巻第1部』の冒頭には、美しい飾り文字で、「本著のアーティストであり同志かつオブザーバーであった私の妹、R.の思い出に捧げる」とある。

秋篠宮眞子(東京大学総合研究博物館特任研究員)

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