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HAGAKI
RESEARCHERS COLUMN

インターメディアテク・レコード・コレクション(16)
検閲

 洋楽レコードの普及とともに、日本ではその歌詞の和訳が徹底的に進められてきた。ところがヒップホップを中心に暴力的もしくは性的な内容の歌詞が流布すると、1990年には定型のラベル「親への勧告-露骨な内容」がジャケットに貼られ、歌詞の和訳も減った。しかし「露骨な内容」は新しいものではない。おそらく、文学同様、人間が歌を歌うようになって以来、露骨な歌詞はつきものである。SP盤が普及した20世紀初頭のブルースは、そういう歌詞に満ちている。カウント・ベイシーと共演したブルース歌手ジミー・ラッシングは、レコード会社による自主的な検閲を逃れるために、俗語や暗号を多用していた。しかし検閲にまつわる伝説のなかで最も有名なのは、ルイ・アームストロングが1927年5月に録音した「S.O.L.ブルース」だろう。無難な別れ話をテーマにした曲だが、題名の頭字語に卑猥な言葉が潜んでいる可能性があるとされ、お蔵入りとなった。しかしアームストロングらは懲りずに翌日、「ガリー・ロー・ブルース」のタイトルでほぼ同じ曲を収録している。原曲は1942年に、若きプロデューサーのジョージ・アヴァキアンによって発掘され、サッチモのアルバムの一面として発売された。

大澤啓(東京大学総合研究博物館特任研究員)

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