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RESEARCHERS COLUMN

インターメディアテク・レコード・コレクション(13)
ジェローム・カーン対ビバップ

 ジャズメンが演奏する曲はその作曲者によって、トラディショナル、スタンダード、ノベルティ、オリジナルなどに大別できる。その中で「スタンダード」は曖昧な範疇で、曲の由来がジャズ、クラシック、ミュージカル、映画または異国のポップスであれ、演奏され続ければジャズの定番となる。当然、ある曲が作曲者の意に反してジャズ・スタンダードになることもある。作曲家ジェローム・カーン(1885-1945年)は、ジャズの要素を自身のミュージカルに取り入れたのにも関わらず、ジャズメンが彼の曲を原作から切り離して演奏することを大に嫌っていた。不幸なことに、1939年のミュージカルで発表された「オール・ザ・シングス・ユー・アー」はその年の失敗作であったのに、カーンが最も警戒していたビバップ奏者によってジャズの定番たる資格を得た。ディジー・ガレスピーらの1945年の名演に始まり、ソニー・ロリンズらハードバップの流れに乗って、モダンジャズやフリーまで吸収し、今でもスタンダードとして愛されている。

大澤啓(東京大学総合研究博物館特任研究員)

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