JP Tower Museum INTERMEDIATHEQUE
HAGAKI
RESEARCHERS COLUMN

帝室の工芸

 生物学御研究所由来の古い標本には、おそらく明治期に献上された、由緒正しい設えのものがある。典型的なのは、一連の漆塗りの木枠にガラスを嵌めた、風雅なケース入りのものだ。木枠は仏壇や家具にも見られる細工を施してあり、繊細な面取りや削りが入っている。漆はシンプルな黒漆が多いが、生地を生かした透き漆の例もある。背面にドアを備えた現代的な日本人形のケースとは違い、台座の上からカバーを被せる構造になっており、ガラス部分が枠ごとすっぽり外れる。だが、その合わせ目はガタ一つなくピタリと嵌っており、外す時には隙間にスパチュラを差し込み、傷をつけないようそっとこじる必要がある。ガラスは薄い端正なものだが、波打った表面を見れば一目瞭然、古い時代の手吹き板ガラスだ。指物師など、江戸から続く高い技術を持った職人が一つずつ手作りしたケースに、足指の曲げ方まで精密に再現した剥製が収まる様は、まさに工芸の粋でもある。

松原始(東京大学総合研究博物館特任准教授)

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