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HAGAKI
RESEARCHERS COLUMN

考える模型

 模型を作る目的は二つあると考えられる。一つはすでに存在する事物を正確に記録することであり、いま一つは未だに存在しない事物のイメージを示すことである。すなわち模型は事物の再現と予示に関わる。たとえば、図面資料に基づいて精緻な縮小版をつくる「完成模型」と、設計プロセスで無数に生み出される「スタディ模型」がある。前者は実物のフォルムやマテリアルの複製が主眼となり、熟達の専門家が制作することもある。かたや、後者はアイディアをカタチにする手段であり、設計者が自ら手を動かすことが多い。コトバやスケッチといった手段に比べて、模型は対象を突き放し、視点を客体化するところがある。制作途中の模型をいろいろな角度から見回し、納得できなければ延々と試作を繰り返す。これは何かを真似る模型ではなく、考える模型である。スタディ模型の制作はスピード勝負なので、作り方は意外とシンプルである。カタマリ系の手法とボード系の手法に大別できる。ボリュームを検討するときは、スタイロフォームに熱線カッターをあてて立体を直接切り出す。内部空間があるような模型では、スチレンボード等の厚紙を切って組み立てて作る。デザイン系の学生が最初に学ぶのは、こういった考える模型の方法である。

松本文夫(東京大学総合研究博物館特任教授)

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